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「1秒で起き上がる」ラグビーを目指せ!

= リコーブラックラムズを率いる神鳥監督 =

2017年06月28日

社会・生活

研究員
平林 佑太

 標高1200メートルを越える長野県・菅平高原。スキー客が多数詰め掛けるゲレンデとして有名だが、夏はスポーツ合宿の聖地に様変わりする。その中の一つ、リコーブラックラムズの合宿を取材した。昨シーズン(2016-17年)は16チームが戦うラグビートップリーグで、発足以来最高の6位になった。合宿を訪ねると、監督・神鳥裕之はブラックラムズを「優勝を争えるチーム」に成長させるべく陣頭指揮を執っていた。(敬称略)




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神鳥裕之監督

神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)

 1974年10月6日生(42歳)
 大阪府出身、大阪工業大学高校(現在の常翔学園高校)で高校日本代表主将。明治大学で1995、96年度大学選手権優勝。1996年リコー入社、ブラックラムズでフォワードとして活躍。2006年現役引退、2013年から監督。


 一昨年のシーズンでブラックラムズは負けが続き、入替戦に回るほどの大不振。大阪府警を破り、辛うじてトップリーグに残留した。昨シーズンを迎える前、神鳥は「入替戦を経験したことで開き直れました」という。そして、「当たり前のことを、当たり前に実行するためのアプローチ」をひたすら追求した。すなわち、ボールを持っていない選手でも、真面目に働くことが大事だと徹底的に叩き込んだのである。それによって、6位という「結果」を出した。

 そして、今2017-18シーズンのチームスローガンを「ACTION」に決めた。神鳥は昨シーズンの6位がフロックではなく、実力だと認めてもらうために今季が正念場だと覚悟し、それをこの6文字に込めたのである。

 ラグビーでは、タックルで倒されたプレーヤーは寝たままの状態でプレーを続けられない。すぐさま立ち上がり、プレー続行を常に要求される。神鳥は熱く語る。「だからこそ、今年のスローガンには『1秒で起き上がってプレーする』という意味を込めたのです」―

 チーム全体練習の際、神鳥が各選手に対して指示したり、大声を上げたりするシーンはまず無い。その理由を尋ねると、「正直なところ、色々言いたくなることはありますけどね...」と苦笑する。フォワード(FW)やバックス(BK)といったポジションごとの専門コーチ陣に信頼を寄せ、まずは各コーチに選手とのコミュニケーションを任せる。そのほうが、自分の役割やチーム全体の方針に対する選手の理解力が増すという。部分最適で全体最適を目指す指導法である。

20170628_02.jpg専門コーチ陣と選手の信頼関係

 その上で、神鳥に今シーズンの戦術を聴いた。「特別なことはしていません。スマートに戦えれば理想ですね」と言いながら、オフェンスとディフェンス双方について語った。

 まずオフェンスに関して、神鳥は「一試合80分間を通してエリアマネジメントが最も重要だ」と指摘する。ラグビーでは常に敵陣においてプレーすることを考えなくてはならない。そのためには各選手がスペースを見つけたら、ランかパスかキックか最適な選択肢を瞬時に判断し、着実に実行する必要がある。だれか一人でもミスを犯せば、敵陣でプレーするというエリアマネジメントが破綻し、勝つことはできない。

 一方、ディフェンス面においては、一対一のコンタクトで負けてはならない。そのために、神鳥は選手一人ひとりに高いプレー精度を要求する。具体的には、「突進してくる相手を低いタックルで倒し、攻撃の芽を摘み取れ!1秒で起き上がり、カウンター攻撃に転じられるように備えよ!」―というわけだ。

 神鳥の指導は、ラグビーの基本動作を重視する。そのキーワードを尋ねると、「ディシプリン(規律)」という答えが返ってきた。プレーの中での約束事や取り決めの遵守こそが、「紳士のスポーツ」といわれる所以なのだ。

 昨シーズンは新人の松橋周平(FW)が大活躍し、日本代表に選ばれるなど、ブラックラムズ躍進の原動力となった。今シーズンもニューフェイス台頭の予感がする中、神鳥に今シーズンの注目選手を聴くと、3年目の若手2人の名前を挙げてくれた。

 その一人、「おにぎり」というニックネームを持つのが、FWの眞壁貴男(まかべ・たかお)。同じポジションでは「トップリーグ最小兵」(神鳥監督)ながら、本人は「低いスクラムとタックルに関してはだれにも負けたくありません」と言い切る。徐々に試合出場数が増えており、今季はフル出場を目指す。

 一方、木上鴻佑(きがみ・こうすけ)は、ラグビーセンスにあふれたBKの一人だ。攻撃の際の冷静な状況判断のほか、ボールを持てば巧みなステップで相手を翻弄する。木上もレギュラー奪取を狙い、「キレのあるステップで観ている人を喜ばせたい!」―。チーム内でのポジション争いは熾烈だが、「7人制ラグビーであれば日本代表クラス」と評される木上の潜在能力に対し、神鳥は大きな期待を寄せる。

(出所)リコーブラックラムズHP

 今シーズンのブラックラムズの開幕戦は2017年8月18日、東京・秩父宮ラグビー場で行われる。対戦相手は昨シーズン苦杯をなめた、NTTコミュニケーションズ・シャイニングアークス(昨季5位)に決定した。

 神鳥は誰よりも何よりも開幕戦を重視する。勝てば弾みが付くから、決して全13試合分の1試合ではないからだ。「常にチャレンジャーの気持ちで、ACTIONの名の下に『1秒で起き上がるラグビー』を存分にお見せしたい!」と意気込む。開幕戦のスタメン選手は「全くの白紙」と強調し、「チーム内で競争心を煽る仕掛けを作っていきたい」という。

 取材の最後、神鳥に目指すチームビジョンについて聴くと、「常にトップ4のレベルで優勝を争える力を付け、一丸となって応援してくれるリコーグループ社員やブラックラムズのファンにパッションを伝えられるチームを目指します」―。眼鏡の奥の瞳がキラリと光り、勝負師の表情に変わった。

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(写真)筆者 PENTAX K-50

平林 佑太

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